2025年6月19日木曜日

秘密の森~推理シーン、OST~

 シーズん1に比較的多い演出で、検事ファン・シモクが推理を働かせる場面で、いきなりまるでいま目の前で起きているような描き方をします。
他の韓国ドラマでも多用しているテクニックで、日本のドラマでももちろんあるのですが、『秘密の森』の場合、推理や過去シーンと通常のシーンの切り替えがシームレスに遠慮なく唐突に行われます。

例えば、ファン・シモクが犯人に成りきって犯罪を犯している場面をファン・シモク自身がその場で見ているシーンなどです。

大抵は、文脈やちょっとしたイフェクトで彼の想像の場面だなとわかるのですが、ぼうっとしていると、それが実際に起きた場面だと思い込み、推理されたシモクの頭の中に描かれた(仮の)容疑者を真犯人と勘違いしてしまうことがあります。

私の場合、ファン・シモクが同僚の先輩検事ソ・ドンジェを疑っていた時、彼が娼婦クォン・ミナを拉致監禁しているのではないか?と推理した場面をシーン切り替えによる実際の場面だと勘違いしてしまいました。(シーズン1第六話)

ソ・ドンジェ検事は、『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男に相当する役回りで、やたらとアンビシャスなために主役たちを裏切ったり、逆に協力したりとコウモリのようなキャラクターで、彼のスタンドプレーで無実の人間が有罪になったあげく自殺したりと主役たちの捜査を妨害攪乱します。


オマケの特徴として挿入曲について一言。

この作品では、韓国ドラマのエンディングやドラマの途中で盛り上げのために流れる歌謡曲(OST)がシーズン2のラスト以外流れません。

他のドラマの作り手たちは、挿入歌でグっと盛り上げようと考えているのでしょうが、歌謡曲が流れてくると私の場合は逆に気が散って醒めてしまいます。

このドラマでは、歌謡曲ではなく重厚なインストの曲が流れるので緊迫感のある演出になっています。

深刻な時、捜査の重要な場面では静かでミニマルな、時にパーカッションだけのようなBGMも映像を引き締めています。

2025年6月18日水曜日

秘密の森~エクスポジション無し~

『秘密の森』登場人物のの関係性を視聴者に説明するようなセリフやシーン(エクスポジション)がありません。

日本のドラマでは、居酒屋だったり、関係者が一堂に会しているパーティなどで脇役などが主人公に「あの人は、○○財閥の御曹司で、異母兄といま財産をめぐって熾烈な争いをしているのよ」なんてやたら説明臭い場面(ダイアローグ・エクスポジション)がありますが、このドラマではまるで現実に起きているやりとりを視聴者は、その場で見ているかのような演出で、背景説明が一切ありません。
じっくりと話数が多く少しずつ背景を語ることができる韓国ドラマならではのアドバンテージだと思います。(見ている方が後で忘れてることが多いですが(笑))

例えば、シーズン2で「イ・ソンジェ」という人物についての会話が頻繁に出てきます。(シーズン1では、その存在について言及がありますが名前までは出てきません)

彼について初めて言及される場面では、ハンジョ財閥の長男でイ・チャンジュン検事長の妻、イ・ヨンジェの異母兄だという視聴者向けの説明は、まったくありません。(おまけにヨンジェとソンジェで一字違いなのが余計わかりにくい)

おまけにこの「イ・ソンジェ」という人物にはキャストが不在で、出演者たちの会話だけに登場してくるキャラクターだということがわかりにくさが倍増します。

いつか画面に登場するのかと待ちましたが、ついに最後まで現れませんでした。

イ・ヨンジョの父親、つまりイ・チャンジュンの義父、ハンジョ財閥の会長は、イ・ユンボムという名前なので、日本人である我々にはイ・チャンジュン、イ・ソンジェ、イ・ヨンジェ、イ・ユンボムと続くともはや誰が誰だか判別がつきません。

私たち視聴者は、画面の中の彼らの会話を”仄聞”して相関関係を知り、自分の理解力とこれまでのエピソードとのつながりを想起して登場人物たちの利害関係や消息などを導き出さなければなりません。

その意味では不親切な脚本ですが、そのために物語のリアリティと重厚さが際立っています。

2025年6月17日火曜日

秘密の森~主役たちの特徴~

他のペ・ドゥナ出演作品の話の前に、『秘密の森』の特徴についてくどくどと記しておきます。

 ◎主役が天才ではない

検事ファン・シモクはとてつもなく頭が切れますが、超能力者でも天才でもなく、計画犯に翻弄され間違いを犯します。
シャーロック・ホームズから杉下右京に至るまで刑事・探偵物の主人公は、なにもかもお見通しですが、ファン・シモクもペ・ドゥナ演じる刑事のハン・ヨジンも事件の森の中をさ迷い続けます。

シモクは、冷徹に相手かまわず予断をもたずに疑いますので組織内で軋轢も生じます。

◎粋がらない”女”刑事

ハン・ヨジンは、ドラマの”女刑事”にありがちな突っ張って、粋がって、変わり者で、無鉄砲で身勝手なキャラとは正反対です。
男の刑事たちに混じって淡々と普通に働いて、協調性があり、頑張り屋なので、彼らからも一目置かれています。(突っ込むときは、大胆に突っ込みます)

第一話目で検事(ファン・シモク)に容疑者を奪われてくさっているハン・ヨジンを同僚刑事たちがからかいます。
ヨジンが、検察にいって文句を言ってくると外出しそうになると、腹に一物ある同僚のキム刑事が、彼女の名前を呼ばずに「ちょっとちょっと」(アマゾンプライムでは「おい」)と呼びかけます。
そばにいたチャン刑事(彼は、警察内でのヨジンのバディになり、組織においてハン・ヨジンともっとも深い信頼関係になります)が”(キム刑事の態度は)失礼だな”と言うとヨジンがおどけながら敬語の挨拶をして出かけます。

いたずらっぽい仕草が、とても可愛らしくて素敵です。

余談ですが、この時のチャン刑事の発言の訳がアマゾンプライムとネットフリックスで違っています。
上記の場面で、ネットフリックスのチャン刑事は「なにが”ちょっと”だよ。敬称で呼べばいいのに」と話しますがアマゾンプライムのチャン刑事は「もう2カ月になるのに”おい”はひどいな」と言います。

私は、最初Netflixで見たので、ハン・ヨジンと同僚たちとの距離感がわからず、もう長いこと慣れ親しんだ同僚仲間と思い込んでいましたが、実際には赴任してまだ二か月しか経っていないことがわかりました。

後に、他の同僚と異なりハン・ヨジンは、警察大学を卒業した超エリートで、本来であれば現場で泥臭い仕事をするような立場ではないことが知れます。
アマゾンプライムでは、この下りしか視聴していませんが、おそらく多くの部分で翻訳が異なっていることと思います。韓国語がわかればなぁと悔やみました。

そんな警察のチームですが、周囲の男性刑事たちも、『リンダリンダリンダ』の高校の後輩たちのように、紳士で悪質なセクハラやパワハラがありません。

ハン・ヨジンは、韓国ドラマの美女ヒロインのようにツンデレでもなく、終始自然体で捜査関係者や事件関係者にも優しくて包み込むような慈愛にあふれています。
そして、恫喝にも動ぜず、悪に対して向き合うときのきりっとした表情のかっこいいこと。

彼女とファン・シモク検事が最初に遭遇する場面(現場の玄関でただすれ違うだけ)は、(大女優ペ・ドウナと知らなければ)地味過ぎてとてもヒロイン登場の場面とは思えません。

余談ですが、「普通にはたらくドラマの刑事」という点について、読売テレビでオンエアされた『彼女たちの犯罪』に登場する上原刑事(野間口徹)に印象や扱いが似ているなと思いました。

ある犯罪に手を染めてしまっている同僚の熊沢刑事(石井杏奈)は、一見凡庸に見える上司、上原の実力を当初侮っています。

しかし、上原の真の優秀さ、粘り強い捜査に、彼女たちはじわじわと追い詰められていきます。

◎恋愛無し

ファン・シモクとハン・ヨジンは、恋愛関係になりません。
二人の関係性は、刑事ものによくある”バディ”ほど”熱く”もない、とてもデリケートな距離感です。(心の奥底では、ちょっとだけ好き同志かも)

ハン・ヨジンの懐の深い性格のおかげで、ファン・シモクの固まった心が少しずつ溶けていきます。(心のリハビリになっている?)
そして、シーズン2の最終話で彼らの信頼関係がゆるぎない物に育ったことが描かれます。(ファン・シモクの台詞ですが、泣いてしまいました。感動的なシーンです)

◎過去のトラウマのないハン・ヨジン

ハン・ヨジンは、これまたありがちな過去のトラウマ(幼い頃、親がどうしたとか)などを抱えていません。一般的な主役の刑事は、くせが強く、秘密の過去があります。
その秘密が事件と深いかかわりがあり話数が進むに従い謎が明らかになっていくというのが定番ですが、彼女は高学歴のごく普通に就職した職業刑事(のようです)。

相方のファン・シモク検事には持病の治療という特殊な過去がありますが、ドラマ冒頭で説明が行われます。

ハン・ヨジンの学歴という要素はシーズン2で組織内での彼女のキャリアに大きく関係してきます。

2025年6月16日月曜日

ペ・ドゥナの完成形

私は『秘密の森』の後、他の韓国ドラマも見るようになりました。

どの作品でも出演者たちが、大声でがなり立てたり、怒鳴り合ったりするシーンが多い印象でしたが、ドラマの主役たちはいずれも物静かで思慮深く振舞います。

こうした典型的ながさつなやりとりはドラマ上のカリカチュアで現実には韓国人たちも落ち着いた人格を好ましいと思っているからこそ主役は落ち着いた性格で描かれているのかと思います。

『秘密の森』の主役たちも常に冷静です。

さて、私が『秘密の森』でそのキュートさに参ってしまったペ・ドゥナは、公開時の年齢が38歳。シーズン2は、41歳です。
41歳で、こんなにチャーミングでかっこよかったら、若い頃はどれだけ可愛いかったのだろう?(笑)

そう考えた私は、これまでの彼女の作品を巡ってみることにしました。

余談ですが、歳を取るメリットのひとつに好みの相手の年齢幅が広がることがあります。
今の私にとっては50代の人も年下ですので、可愛く見える人もいます。
そこから犯罪を犯さないで済む年齢まで恋愛対象のターゲット(笑)が広がります。(現実の話であるとか相手側の事情は別です。そこを勘違いすると大変なことになりますので自制してください)

初期の作品のペ・ドゥナは、それはそれはとろけるようにキュートです。そんな昔と比べると『秘密の森』の彼女は確かに年相応になっていますが、私の目にはむしろそれが大きな魅力になっています。

刑事事件を追う深刻な内容のためともすれば陰鬱になりがちな内容のドラマですが、剽軽な実務官や同僚のチャン刑事、そしてペ・ドゥナの暖かい演技がドラマの空気を明るくしてくれています。

初期作品の演技と比べると『秘密の森』で見せるハン・ヨジンは緩急に富んでいて、自然で自在な仕草、コミカルとシリアスが絶妙なバランスでハイブリッドに熟成されたペ・ドゥナの完成形だと思います。

2025年6月14日土曜日

秘密の森 ~視聴のきっかけ~

Netflixのホーム画面には、多くの作品のサムネイルが所狭しと並んでいます。

その中の数作になんとなく気になる(要するに好みの顔の)女性の写真が出ていて、それがペ・ドゥナでした。(『秘密の森』の他に『Sense8』や『Rebel Moon』など)

見覚えがある顔だと思っていたら、以前、劇場で観た『クラウド・アトラス*1』に出ていた人だと思い出しました。

それまでに見た韓国ドラマは一時期話題になった『愛の不時着』だけでした。
韓国ドラマは、確かに面白いのですが、なにぶん一話が”長い”。話数も多い。
さぁ見るぞ!と気合をいれないといけないというので、『愛の不時着』以外の作品に関しては長い間敬遠していましたが、ペ・ドウナの顔写真に惹かれ重い腰を上げて見始めました。

ところで、前回のポストでペ・ドゥナが「可愛い」、「美しい」と言った舌の根も乾いていませんが、彼女は私の目には美しくても、万人受けする美人ではないと思います。

ペ・ドゥナを知らない友人に彼女の写真を見せたところ「なんで?」というような反応が返ってきました。ま、所詮は好みの問題ですが、友人が彼女の演技を見たら考えが変わること間違いなしだと思っています。

作家の横田創氏は、前掲書『ユリイカ』に寄せた「神と見紛うばかりの」というエッセイで、ペ・ドゥナの鼻を「団子っ鼻」、目のあたりを「腫れぼったい」と書いていますが、同時に彼女の「広いおでこ」や「まんまるの目」について愛にあふれた書き方をしています。

ぼんやりしていても、ぱっちりしている。それも人形の目のようにぱっちりしている、のではなくて、どちらかといえばカエルやフクロウの目のようにぱっちりしている。

褒めているのか貶しているのかわからない書き方ですが、でも彼女を大好きな気持ちが伝わります。
ペ・ドゥナが一点を凝視している時の目と表情の可愛さは、横田氏が言うように神々しくもあります。

*1: 『クラウド アトラス』(2012年)は、デイヴィッド・ミッチェルの同名小説を原作としたSFドラマ映画。19世紀から未来の文明崩壊後までの6つの時代を舞台に、それぞれの物語が複雑に交差する。キャストは各時代で異なる役柄を演じ、1849年、2144年、2321年の物語をウォシャウスキー姉妹が、1936年、1973年、2012年の物語をトム・ティクヴァが監督。

2025年6月13日金曜日

ペ・ドゥナ病に罹患

韓国の連続ドラマ『秘密の森』を見てから俳優のペ・ドウナの大ファンになりました。

これまで特定の作家のファンや作品、ミュージシャンを気に入ることがあっても、芸能人の熱烈なファンになるという経験がありませんでした。

早い話がペ・ドゥナに恋してしまったのです。
とはいえ、彼女のファンがみな口を揃えて言うように、彼女の場合、不思議なことに”邪な”妄想(笑)が生じません。ただ純粋に好きなだけです。

演技力の凄さに。見た目の可愛いさと美しさに。

例えば、彼女の初期の出演作『プライベートレッスン 青い体験』は、青春ドラマとは言え一種のアダルト作品です。ペ・ドゥナの裸やセックスの場面を見せられますが、なぜか心に思うのはナムオク(ペ・ドゥナ)に幸せになってほしいという気持ちになってしまうのは、エロス作品にペ・ドゥナを起用した製作者の失策でしょう(笑)

彼女の可愛さを一番よく伝えてくれているのが『空気人形』の是枝裕和監督と『リンダリンダリンダ』の山下敦弘監督のお二人の対談です。

是枝「普段も可愛いですからね。みんな好きになると思うよ、本当に(笑)。現場にいたおじさんからおばさんからおじいちゃんから子どもまで、みんな嘘偽りなくペ・ドゥナのファンという感じ。僕もですけど。面白いし、本当にチャーミングなんですよ。」

山下「可愛いですよね(笑)。」*1 

このあと、山下監督が『リンダリンダリンダ』を撮り終わって、夢にペ・ドゥナたちが出てきてからというものドキドキして以前のようにペ・ドゥナに接することができなくなってしまうというエピソードが続きます。

映画監督など製作者たちにしか見られない「普段の可愛いペ・ドゥナ」を見たいと思っていたところ、YouTubeに『私の少女』のメイキング映像がありました。

差し入れを配っている様子にペ・ドゥナの人柄がうかがえます。

ペ・ドゥナにお菓子もらいたい(笑)

*1) 『ユリイカ2009年10月臨時増刊号 総特集=ペ・ドゥナ 『空気人形』を生きて』対談 是枝裕和 山下敦弘『ペ・ドゥナ、おそるべき女優魂』より(以降、本書を『ユリイカ』と書きます)