他のペ・ドゥナ出演作品の話の前に、『秘密の森』の特徴についてくどくどと記しておきます。
◎主役が天才ではない
検事ファン・シモクはとてつもなく頭が切れますが、超能力者でも天才でもなく、計画犯に翻弄され間違いを犯します。
シャーロック・ホームズから杉下右京に至るまで刑事・探偵物の主人公は、なにもかもお見通しですが、ファン・シモクもペ・ドゥナ演じる刑事のハン・ヨジンも事件の森の中をさ迷い続けます。
シモクは、冷徹に相手かまわず予断をもたずに疑いますので組織内で軋轢も生じます。
◎粋がらない”女”刑事
ハン・ヨジンは、ドラマの”女刑事”にありがちな突っ張って、粋がって、変わり者で、無鉄砲で身勝手なキャラとは正反対です。
男の刑事たちに混じって淡々と普通に働いて、協調性があり、頑張り屋なので、彼らからも一目置かれています。(突っ込むときは、大胆に突っ込みます)
第一話目で検事(ファン・シモク)に容疑者を奪われてくさっているハン・ヨジンを同僚刑事たちがからかいます。
ヨジンが、検察にいって文句を言ってくると外出しそうになると、腹に一物ある同僚のキム刑事が、彼女の名前を呼ばずに「ちょっとちょっと」(アマゾンプライムでは「おい」)と呼びかけます。
そばにいたチャン刑事(彼は、警察内でのヨジンのバディになり、組織においてハン・ヨジンともっとも深い信頼関係になります)が”(キム刑事の態度は)失礼だな”と言うとヨジンがおどけながら敬語の挨拶をして出かけます。
いたずらっぽい仕草が、とても可愛らしくて素敵です。
余談ですが、この時のチャン刑事の発言の訳がアマゾンプライムとネットフリックスで違っています。
上記の場面で、ネットフリックスのチャン刑事は「なにが”ちょっと”だよ。敬称で呼べばいいのに」と話しますがアマゾンプライムのチャン刑事は「もう2カ月になるのに”おい”はひどいな」と言います。
私は、最初Netflixで見たので、ハン・ヨジンと同僚たちとの距離感がわからず、もう長いこと慣れ親しんだ同僚仲間と思い込んでいましたが、実際には赴任してまだ二か月しか経っていないことがわかりました。
後に、他の同僚と異なりハン・ヨジンは、警察大学を卒業した超エリートで、本来であれば現場で泥臭い仕事をするような立場ではないことが知れます。
アマゾンプライムでは、この下りしか視聴していませんが、おそらく多くの部分で翻訳が異なっていることと思います。韓国語がわかればなぁと悔やみました。
そんな警察のチームですが、周囲の男性刑事たちも、『リンダリンダリンダ』の高校の後輩たちのように、紳士で悪質なセクハラやパワハラがありません。
ハン・ヨジンは、韓国ドラマの美女ヒロインのようにツンデレでもなく、終始自然体で捜査関係者や事件関係者にも優しくて包み込むような慈愛にあふれています。
そして、恫喝にも動ぜず、悪に対して向き合うときのきりっとした表情のかっこいいこと。
彼女とファン・シモク検事が最初に遭遇する場面(現場の玄関でただすれ違うだけ)は、(大女優ペ・ドウナと知らなければ)地味過ぎてとてもヒロイン登場の場面とは思えません。
余談ですが、「普通にはたらくドラマの刑事」という点について、読売テレビでオンエアされた『彼女たちの犯罪』に登場する上原刑事(野間口徹)に印象や扱いが似ているなと思いました。
ある犯罪に手を染めてしまっている同僚の熊沢刑事(石井杏奈)は、一見凡庸に見える上司、上原の実力を当初侮っています。
しかし、上原の真の優秀さ、粘り強い捜査に、彼女たちはじわじわと追い詰められていきます。
◎恋愛無し
ファン・シモクとハン・ヨジンは、恋愛関係になりません。
二人の関係性は、刑事ものによくある”バディ”ほど”熱く”もない、とてもデリケートな距離感です。(心の奥底では、ちょっとだけ好き同志かも)
ハン・ヨジンの懐の深い性格のおかげで、ファン・シモクの固まった心が少しずつ溶けていきます。(心のリハビリになっている?)
そして、シーズン2の最終話で彼らの信頼関係がゆるぎない物に育ったことが描かれます。(ファン・シモクの台詞ですが、泣いてしまいました。感動的なシーンです)
◎過去のトラウマのないハン・ヨジン
ハン・ヨジンは、これまたありがちな過去のトラウマ(幼い頃、親がどうしたとか)などを抱えていません。一般的な主役の刑事は、くせが強く、秘密の過去があります。
その秘密が事件と深いかかわりがあり話数が進むに従い謎が明らかになっていくというのが定番ですが、彼女は高学歴のごく普通に就職した職業刑事(のようです)。
相方のファン・シモク検事には持病の治療という特殊な過去がありますが、ドラマ冒頭で説明が行われます。
ハン・ヨジンの学歴という要素はシーズン2で組織内での彼女のキャリアに大きく関係してきます。