2025年8月4日月曜日

居酒屋の二人

シーズン2の第2話では、本庁に戻ってきたシモクがヨジンを居酒屋に誘います。
少し遅れてきたヨジンの嬉しそうな顔。

店内が騒がしいので屋台の方がよかったかもというヨジンに、残念ながら店が潰れていたと話すシモク。続く住まいの話といい事件とは関係ない彼らの日常風景がシーズン1の流れや思い出からきちんと文脈がつながっているのが憎い仕掛けです。

この場面ではお互いが利害の反する部門に所属することが判明、波乱の予感がします。
途中で上司から呼び出され中座するシモクに残され一人でタコ炒めを食べるヨジン。

ペ・ドゥナは、明るくて朗らかな表情と裏腹に孤独がとても似合う俳優です。
特にシーズン2では、エリート組織に放り込まれた現場志向のヨジンの孤独が全話通して描かれています。

『空気人形』の”のぞみ”はもちろんのこと、『私の少女』の警察署長、イ・ヨンナムや『子猫をお願い』のテヒような孤独の演技は、あたしたちの胸に迫ります。
そういえば『リンダリンダリンダ』のソンちゃんも孤独でした。

次の居酒屋は第12話。事件の目撃者の証言を現場で覆したシモクをヨジンが誘います。

「ねえ」「一杯どう?」

こんな可愛い顔で誘われて断る人間はいませんな。

ここのシナリオは、並行してシモク・ヨジン組の鏡ともいえる彼らの上司組が同時に喫茶(コーヒーですが)している作りです。

この二組のペアの鏡像的扱いは終盤でも重要なモチーフとなっています。

変わって居酒屋の二人はいつもの焼酎ではなくマッコリを飲んでいます。
このシーンのさし飲み推理でいよいよ事件の核心に迫る二人ですが、一人でばくばく白菜を食べるシモクに呆れるヨジンが可笑しい。

そしていよいよ第16話。事件解決後、警察庁に派遣されていたヨジンは情報局に本格的に異動。シモクも大手柄を立てたのにも関わらずまたも地方へ異動。

今回もシモクが彼女を誘いました。

この第二シーズン、最初ヨジン登場でオヤっと思うのは彼女がロングヘアーだということでした。

正直、似合わない(笑) コケシのロングヘアーのようです。

アクションにも合わないし捜査中は髪を後ろで縛っているのでまぁ良しとしていました。
ところが居酒屋に現れたヨジン、あの長い髪を切っていつもの可愛いボブに。

この結末のためにヘアスタイルまで伏線を設けていると言うシナリオの緻密さに舌を巻きます。

ヨジンを見て「髪が」と驚くシモク。
「初めて会った時みたいだ」嬉しそうにするシモクに、
「昔と変わっていないでしょ」と首を振るしぐさの可愛いこと。

急な異動を告げるシモクに「元気で」と言った彼女にシモクも「元気で」と返しますが彼の微笑んだ表情が素晴らしくて涙が出ます。

「私は…」「たぶん大丈夫」

異動について不本意なヨジンの(本当は大丈夫じゃない)心を察したシモクが「大丈夫じゃないことも?」(Is there a chance you won't be okay?)との問いかけに対してかぶりを振るペ・ドゥナの悲しみをこらえた笑顔が素晴らしくて泣けます。
(目の下の小じわがまた可愛い←変ですかね?)

パジョンをむしゃむしゃ食べる様子も可愛いし食べているヨジンを見るシモクの目の優しいこと。

余談ですが、この店でもヨジンはシモクの好物の白菜を忘れずに注文してますな。
実に芸が細かい。

2025年8月2日土曜日

カスタネダ関係の投稿にコメントいただきました

 記事にコメントを頂戴いたしまして、確認がとろくてすいませんでした。
貴重な情報をありがとうございました。


2025年7月30日水曜日

屋台の二人

ハン・ヨジン(ペ・ドゥナ)とファン・シモク(チョ・スンウ)の二人が対話する場面は事件解決への重要な手がかりが見つかったり、二人の信頼の”進化”を楽しめたりと長い物語の中で大切な節目となっていますが、中でも居酒屋の二人は人気のシーンだと思います。

このシリーズでは1で3回。2で3回と都合6回、”さし飲み”の場面があります。
シーズン1の第6話でヨジンがシモクを誘うエピソードについては、すでに触れました。

第8話では、遅れてきたヨジンがシモクの食べているラーメンにスプーンを突っ込んで味見をし、濃すぎると勝手に水を入れたりと二人の距離がグっと増しているのがわかります。
ヨジンが自分のラーメンに水を注ぐのを見て嫌そうな顔をするシモクに笑えます。

しかし、まだこの段階ではシモクは酒につきあいません。
ヨジンが自分の目を信用しているという仕草に、思わず微笑んだシモクを見て嬉しそうにするペ・ドゥナの可愛いこと。

ちなみにこのシーンのメイキングをYouTubeで見られます。
ラーメンを二杯も食べたと身体を動かすペ・ドゥナがおちゃめです。


第16話では、事件解決後、手柄を立てたにも関わらず地方に異動になるシモクと翌日に昇進の表彰式を控えるヨジンが別れの盃を交わします。
ヨジンは、お祝いにシモクの同級生キム・ジョンボンが贈ってくれた口紅をつけて現れます。

空き部屋になるシモクの部屋の家賃のやりとりや見送りができないことを残念がるヨジンの気持ちに相変わらず鈍感なシモクに呆れるヨジン。
笑い顔の似顔絵を花向けに用意してきたペ・ドゥナの得意そうな顔。

「元気でね」と別れを告げるヨジンに「頑張って」と返すシモクでいい雰囲気になったかたと思いきや自分の分のつまみしか頼んでいないシモクにまた呆れるヨジン。
料理人が変わって以前のように塩辛くないといった後、口紅をつけたヨジンの唇に「口が赤いぞ」と無粋なシモクに噴き出すヨジン。
「かわいいでしょ?」に「おかしい」と返すのも切なくもほほえましい別れです。

2025年7月23日水曜日

ヨジンの涙

前回、ぺ・ドゥナの怒る演技について書きました。
となれば、「泣き」について書かなくてはいけない。
彼女の涙のシーンは、とにかく上手でついもらい泣きしてしまいます。

どちらかというと大した役どころではない主人公の妻役だった『トンネル 闇に鎖された男』でも彼女が涙をみせるシーンではホロっとしてしまいます。

実際に本人も涙もろいようで映画監督の砂田麻実氏が是枝監督の『空気人形』の助手をしていた時、リハーサル中にこらえきれずに泣いてしまうペ・ドゥナが本番になるとピタッと泣かずに演技ができる様子について語っています。*1

そんな彼女の涙のシーンの中で頂点だと思っているのが『秘密の森2』の最終話。

シーズン1で立てた手柄のため警察庁に派遣されたハン・ヨジンはいけすかないエリート警察官僚のやっかみで孤立、シリーズの間中居心地の悪い思いをしています。
今回も事件を解決したにも関わらず同僚に仲間を裏切ったと責められるヨジン。

そんな中、昔の現場仲間に飲み会に誘われ、会議室の壁にもたれ、歯をくいしばっても思わず涙ぐんでしまうシーンが忘れられません。

続くヨジンを気遣うチャン刑事はじめ昔の仲間たちの暖かい会話もこれまでの長い経緯あっての感動でした。

余談ですが、かつてのヨジンの席に別の刑事が異動し、ついに警察署に彼女の席はなくなります。派遣だった警察庁も、完全な異動となって情報局に身を置くことになったヨジン。果たして次のシーズンがあるのでしょうか?


*1:『是枝監督とペ・ドゥナの奇跡』(花田欣也著) より。(以下、『奇跡』と記載)この本は『空気人形』の製作に携わった方々へのインタビューで構成されています。ペ・ドゥナがリハーサルで泣くエピソードは砂田氏以外にも多くの方が語っています。

あとがきによると著者の花田氏はペ・ドゥナの1ファンだそうで、ペ・ドゥナ当人にもインタビューしている内容なのでかなり嫉妬しました(笑)

2025年7月18日金曜日

ヨジンの怒り

怒っていても深いところに優しさが溢れる演技はどうしたらできるのでしょうか?

そうした味わいのある芝居ができるのは年配の役者に多いと思います。それは、職業としての年季と人間としての年季の両方に支えられているのでしょう。(いつまでも下手な役者もたくさんいますが)

そのためか若い役者には怒り方が上手な人が少ないようです。
特に若い女優の場合、声が高いせいか怒った声がキンキンして単にうるさくて怖い演技になってしまうようです。
その点、ペ・ドゥナの怒り方はさすがです。声も低めだし。

ヨジンが怒るとき、シナリオの良さのおかげもあって心が伝わり、その演技に涙が出てきます。

シーズン1では、被害者の息子、パク・ギョンワンが尊属殺人(父親殺し)の疑いをかけられます。警察署長にプレッシャーをかけられた現場の刑事たちは、自白を強要しギョンワンに拷問に近い暴力をふるいます。

それを知ったハン・ヨジンは怒りのあまり告発しそうになりますが、検事ファン・シモクにはやまるなと引き止められます。

シモクの一見冷たく思える対応が、実は深い思いやりから出たもので、憤懣やるかたないヨジンに示す解決策も見事です。(そのために、あらかじめ幼馴染キャラを用意しておくシナリオが見事です)

私はね
殴られたことよりも
許せないことがあるの
暴行を加えた側が ━━━
私の同僚だった
彼らは残忍な人たちじゃないわ
許されるから そうなったの
黙ってくれるからよ
誰かが立ち上がれば変えられるの

シーズン2の終盤で、尊敬する上司、チェ・ビッ部長に食って掛かるヨジンとそれを突き放すように見えてヨジンを大切にする部長もステキです。

余談ですが、上記の幼馴染のキム・ジョンポンは、口紅をプレゼントしたりと、どうやらハン・ヨジンに惹かれている節があります。(第5話)
特任チーム設立時、メンバーが集合した時、じっと見つめるジョンポンの視線からヨジンを庇うチャン刑事のジェントルマンぶりも粋です。(第9話)

2025年7月16日水曜日

光るディテール

『秘密の森』を見ているとペ・ドゥナのちょっとした演技に目を奪われます。
演出の力もあると思いますが本人の自然な演技力の賜物だと思います。

そうした演技をまた見たくなり、結局3度も通しで観てしまいました。

例えば、第5話の中で、瀕死の状態で救出されたキム・ガヨン(=クォン・ミナ)の病室にハン・ヨジンが入ってくるシーンがあります。この一瞬の場面のハン・ヨジンの扱いはあくまでも画面端の点景的な扱いですが、その際にさりげなくマスクを装着している姿が映ります。
入る前からマスクをしていても成立する場面ですが、入りながら装着することでシーンに流れるような雰囲気を与えています。

同じような「点景」扱いのハン・ヨジンで大好きなシーンが、第9話でユン課長が夜食のパンを大量に買ってくるシーンです。

机の上にドサっと広げられたパンを特任チームの面々が選んでいます。

そこでハン・ヨジンがパンを選ぶ様子が実に自然で素晴らしい。いったん手に取ったパンを眺めてちょっと戻したり、細かい動作がまるで本当の職場風景のように見えます。


その後、パンを食べているシーンも可愛らしくて、前にこぼれたパンくずを払うシーンも実に上手です。(普通に食べているだけかもしれませんが(笑) おいしそうに飲み食いするペ・ドゥナは、本当にキュートです)

そして、シーズン2のエピソードになりますが、第13話。
シモクとヨジンが会議室で二人、弁当を食べるシーンがあります。

これはシーズン2の事件を解決に導く重要な会話ですが、内容に加えかつてシモクの部下だったヨン・ウンスへの思いを語るシモクと、それを聞いているヨジンの表情が素敵です。

容疑者の住まいを確認するために市庁舎に調べに行くことを思いつき、思いのほか時間が経ったことに気づいて「あ!」と慌てる様子が実に上手い。

ペ・ドゥナの驚いたり慌てたりする演技(『家族計画』の冒頭の交通事故で見せる驚く顔も見事です)はいつも秀逸ですが、もっと見事なのは彼女の怒り、そして涙です。

2025年7月2日水曜日

脳内メーカー

食事の話題でいいますと、第6話でヨジンが街の香水店にいるファン・シモクを見かけて「食事でもどう?」と誘う場面があります。

こんなに自然に、そしてスマートに異性を食事に誘える人はなかなかいないと思います。そもそも異性であること自体を気にしていないようにも思えます。
ハン・ヨジンが性別や身分、年齢など関係なくあらゆる人に心を開いている人だということがわかる場面です。

香水店の後、食事がすんでからの二人の推理劇のシナリオは秀逸です。
風俗嬢クォン・ミナの傷害事件の容疑をかけられてしまったシモクは、ハン・ヨジンを伴い風俗店を再び訪れます。
店の経営者(美しい)を責める二人のコンビネーションは絶妙で、とりわけヨジンのクォン・ミナの住所を犯人に知らせてしまった経緯について経営者を追い詰める発言が心に刺さります。
(クォン・ミナの携帯待受け楽曲を伝えようとするシモクの下手なハミングに呆れた顔をするペ・ドゥナの演技も最高です)

店を後にしたシモクが同僚のソ・ドンジェにはクォン・ミナの住所は突き止められないと思いこんでいた心理は、シモクの優越感であると気が付いた二人。
シモクは自分にそんな感情があったことに驚き、ヨジンは逆に優越感以外にもたくさんの感情が隠れているのだと、(当時ネットで流行っていた)脳内メーカー(マップ)をノートに書いてシモクにプレゼントします。

こころなしか嬉しそうにするシモク。そして別れ際にトボトボ歩き去るシモクの背中に「胸を張って!」と活をいれるヨジンの暖かい心に思わずホロっときます。
(帰路の車中、ヨジンが自分たち二人は信頼できるとほのめかした発言にシモクが初めて笑顔を見せる場面があります)


被害者の老母を食事に誘った上、自宅へ招き料理までねだることができる所以だと思います。
老母が作ってくれたナムルを見てはしゃぐヨジンは、『威風堂々な彼女』のウニに似て、まるで実の娘が甘えているように天真爛漫でキュートです。(第3話)