2011年3月31日木曜日

涼州の詞

計画停電がスタートして間もないある晩、東京がいきなり寒くなったのでもしかすると予期せぬ大停電もありうるという発表があり、とにかく仕事を終えられる人は帰宅してほしいということになりました。
同僚の一部は、そうも言ってられず最小限の員数が残った日の帰路。
新木場の駅に着きました。

町は全体的に暗めでしんとした感じ、例の飲食街もきっと灯を落としているに違いないと思いきや。
なんと何軒かは営業していました。
外からのぞいてみると、数組のサラリーマンたちが酌み交わしている。

この日は余震も多く停電の恐れもあり、被災地のこと考えると、とても寄り道なんてしてる場合じゃあないのに。
なんて一瞬思ったのですが、酔客の背中を見て「涼州の詞」が浮かんできたのです。


涼州の詞 王翰(おうかん)
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萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
醉臥沙場君莫笑
古來征戰幾人囘

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葡萄の美酒、夜光の杯。飲まんと欲すれば、琵琶馬上に催す。
酔いて砂上に臥す。君、笑うことなかれ。古来征戦幾人か帰る。

2011年3月28日月曜日

そのことに候

さて「高名の木登り」と言えば、高校の古文の授業で必ず習いますな。

たいていは、吉田兼好の書き出し「つれづれなるままにひぐらし…」ってところとペアになって教科書に載っている。

吉田兼好のエッセイですね。ブログやfacebookみたいなもんです。

この「木登り」さんは植木職人の頭(かしら)でして弟子に木の手入れをさせているんですな。筆者(吉田さん)は、その作業を見ている。
枝を剪定しているのですが、すごく高いところを世話しているときは声もかけないのに、低いところにとりかかったら、
「おいおい。気を付けて作業しろよ!」
と声をかけたと。

そのやりとりを見た吉田さんが「かしらぁ。もう飛び降りても大丈夫なくらいなところなのになんでわざわざ注意したの?」と聞いたら、頭のカッコいいこと。

「そのことにそうろう」(そのことでございます)※注
「うんと高いところは注意しなくても自分が怖いので慎重にします。低いところほど事故がおきやすいのですよ」と答えたと。

プロの答えはいつも「そのことにそうろう」といきたいものですよね。

逆に、この返答を聞いた吉田さんの感想が実に情けないなと、前から思ってまして。

「毬(けまり)もむずかしいところを蹴るときより、簡単に思えるとついとりこぼしてしまうものです」と。
自分の身の回りのことで喩えたのですが「けまり」くらいしか思いつかない。
所詮は、エリートのコメントなわけです。言っても詮無いことですが。


※注:文中で「そのことでございますね」と書いた方がわかりやすいと思いますが「そのことでございます」の方が一層、カッコいいでしょ?

2011年3月10日木曜日

ダニエル・タメット最新刊

以前、「円周率の暗証」の項目で触れたダニエル・タメットさんの新著が出ていました。

天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界 」(講談社)

以前の記事であたしは、「ダニエルさんのような天才も、わざわざ努力して「覚える」んだ!と変な感動をしたものです」と書きましたが、この本で彼はその答えを出しています。

手元に本がないのでうろ覚えですが、

「一説にサヴァンは、”写真”のように記憶すると言われているが、あれは神話だ」
と言っています。

タメットさんは、「僕(ダニエル)から言うと人の顔を覚えていられるみんなが天才に思える」。
ふーむ。さすがホンモノの言葉ですよね。重みが違う。

同著の中では、このテの本の草分け「妻を帽子とまちがえた男」(オリバー・サックス著)の記述の信ぴょう性についてもズバっと切り込んでいます。
どうやらサックス博士は、ウケねらいで大げさに書いちゃったのかもしれませんね。

でも、じゃあ、あの有名な「直観像記憶(上記の写真のように記憶するという能力)」ってなんなの?
「ブレインマン」(BBCのダニエルさんを追ったドキュメンタリー)には、直観像記憶を持つ画家が確かに登場するし。

こちらは、絶版になっていますが『なぜかれらは天才的能力を示すのか―サヴァン症候群の驚異 』を読みますと実に様々な能力を持っている人たちがいるようで、まだまだ謎はつきないですな。



追記)2016年6月3日

その後、『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由 』ジョシュア・フォア著という本が出ました。

これはごく普通の記憶力を持っている著者(ライター)が記憶力チャンピオンの大会を取材している内に自分も興味を持ってしまいチャンピオンに弟子入りして見事、アメリカのチャンピオンになるという凄いドキュメントの本です。

この本の中にタメットさんに関する記述が数か所出てきていて彼のサヴァンに関して問題提起をしています。タメットさんファンにとってみると結構ショッキングな内容です。