2007年11月1日木曜日

災害カンパ

トトロ事件より前のことです。

Mというアルバイトがいました。隣の職場だし彼が具体的にどのような仕事をしているのかは知りませんでしたが、毎日顔を合わせるので挨拶と軽口程度はかわす仲でした。

ある日のこと、こんな噂を耳にしました。
「なんか。M君、住んでいたアパートが浸水したとこかで住むところなくなっちゃったらしいですよ。」
浸水とは、おだやかではありません。
いったいどのような地域に暮らしていたのでしょうか。

やがて彼は職場に寝泊りするようになりました。
さすがに管理部もまずいと思ったのでしょう住居が定まるまでいったん田舎に帰るように指導したようです。

Mが帰省してすぐ後。

「みなさぁん」職場に響き渡る明るい声。中堅社員のTさんが、大き目の封筒をもって歩き回っています。
みれば封筒に紙がはってあって傍目にはゴルフコンペの投票袋のように見えます。

何事かとたずねますってぇと、「Mが気の毒なので、住宅手当がわりのカンパを募ってるんだ。」とのこと。ひと口いくらとは書いていないが、管理職クラスは結構大きな額を入れていたようです。

お前もどうだ?と言われましたが、なぜかちょっとひっかかるものを感じたので「あ。あぁ。私は後ほど。」とか言ってその場をスルーすることにしました。

職場の事故で犠牲者が出ると会社が公式に育英資金のようなものを募ることがあります。
そんな時には面識のない人であっても、みなが少しずつカンパをする慣習となっているので、その時も別に金を出すのが惜しかったわけではありません。
Tさんてば、やけに朗らかだし、唐突だなぁと思ったのです。

数ヵ月後。
「ちょっと。つかさん。(あたしのことです)」と隣の職場の人間。
「なんですか?」
「つかさん、まさかMの浸水カンパしました?」
「カンパって。えーと。あのぉTさんが集めていた?」
「そうそう。そのT。」
「ちょっとね。なんか気がのらなくて出さなかったんですよ。」
「そりゃ。よかった。」
「え?どうして?」
「あの金ね。かなりの額になったらしいけど、Mには一文もわたってないよ。」

ゲ!……や、やはり。

Tさんの借金癖、踏み倒し歴は、社内の一部では伝説になっています。
あたしがカンパに応じなかったのは友人のKが新入社員時代に100万円踏み倒されているのを知っていたからなのです。(返済をいまだ言い出せないKは、本当に気が弱い)

落ち着き先がきまったMが職場に復帰し、だれかが例のカンパのことをMに聞いたらしいのです。
さだめし「あの金、役にたったかい?」てな具合だったのでしょう。

するとMが「え?なんのことっすか?」と来たのでしょう。

それから、さては!!となったわけですが、そこはそれ社内でも評判のTさんである。責められることもなく、いまだにのうのうと暮らしています。

そんなTさん。やはり、ある平日、子供を職場につれてきました。
会社で大評判の人物でも子供がくれば、そこは子供で父親です。
そしてそんな人ほど、平日、職場に子供つれてきたりするわけだ。これが。

(初出:2005年11月04日)

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