2025年8月4日月曜日

居酒屋の二人

シーズン2の第2話では、本庁に戻ってきたシモクがヨジンを居酒屋に誘います。
少し遅れてきたヨジンの嬉しそうな顔。

店内が騒がしいので屋台の方がよかったかもというヨジンに、残念ながら店が潰れていたと話すシモク。続く住まいの話といい事件とは関係ない彼らの日常風景がシーズン1の流れや思い出からきちんと文脈がつながっているのが憎い仕掛けです。

この場面ではお互いが利害の反する部門に所属することが判明、波乱の予感がします。
途中で上司から呼び出され中座するシモクに残され一人でタコ炒めを食べるヨジン。

ペ・ドゥナは、明るくて朗らかな表情と裏腹に孤独がとても似合う俳優です。
特にシーズン2では、エリート組織に放り込まれた現場志向のヨジンの孤独が全話通して描かれています。

『空気人形』の”のぞみ”はもちろんのこと、『私の少女』の警察署長、イ・ヨンナムや『子猫をお願い』のテヒような孤独の演技は、あたしたちの胸に迫ります。
そういえば『リンダリンダリンダ』のソンちゃんも孤独でした。

次の居酒屋は第12話。事件の目撃者の証言を現場で覆したシモクをヨジンが誘います。

「ねえ」「一杯どう?」

こんな可愛い顔で誘われて断る人間はいませんな。

ここのシナリオは、並行してシモク・ヨジン組の鏡ともいえる彼らの上司組が同時に喫茶(コーヒーですが)している作りです。

この二組のペアの鏡像的扱いは終盤でも重要なモチーフとなっています。

変わって居酒屋の二人はいつもの焼酎ではなくマッコリを飲んでいます。
このシーンのさし飲み推理でいよいよ事件の核心に迫る二人ですが、一人でばくばく白菜を食べるシモクに呆れるヨジンが可笑しい。

そしていよいよ第16話。事件解決後、警察庁に派遣されていたヨジンは情報局に本格的に異動。シモクも大手柄を立てたのにも関わらずまたも地方へ異動。

今回もシモクが彼女を誘いました。

この第二シーズン、最初ヨジン登場でオヤっと思うのは彼女がロングヘアーだということでした。

正直、似合わない(笑) コケシのロングヘアーのようです。

アクションにも合わないし捜査中は髪を後ろで縛っているのでまぁ良しとしていました。
ところが居酒屋に現れたヨジン、あの長い髪を切っていつもの可愛いボブに。

この結末のためにヘアスタイルまで伏線を設けていると言うシナリオの緻密さに舌を巻きます。

ヨジンを見て「髪が」と驚くシモク。
「初めて会った時みたいだ」嬉しそうにするシモクに、
「昔と変わっていないでしょ」と首を振るしぐさの可愛いこと。

急な異動を告げるシモクに「元気で」と言った彼女にシモクも「元気で」と返しますが彼の微笑んだ表情が素晴らしくて涙が出ます。

「私は…」「たぶん大丈夫」

異動について不本意なヨジンの(本当は大丈夫じゃない)心を察したシモクが「大丈夫じゃないことも?」(Is there a chance you won't be okay?)との問いかけに対してかぶりを振るペ・ドゥナの悲しみをこらえた笑顔が素晴らしくて泣けます。
(目の下の小じわがまた可愛い←変ですかね?)

パジョンをむしゃむしゃ食べる様子も可愛いし食べているヨジンを見るシモクの目の優しいこと。

余談ですが、この店でもヨジンはシモクの好物の白菜を忘れずに注文してますな。
実に芸が細かい。

2025年8月2日土曜日

カスタネダ関係の投稿にコメントいただきました

 記事にコメントを頂戴いたしまして、確認がとろくてすいませんでした。
貴重な情報をありがとうございました。


2025年7月30日水曜日

屋台の二人

ハン・ヨジン(ペ・ドゥナ)とファン・シモク(チョ・スンウ)の二人が対話する場面は事件解決への重要な手がかりが見つかったり、二人の信頼の”進化”を楽しめたりと長い物語の中で大切な節目となっていますが、中でも居酒屋の二人は人気のシーンだと思います。

このシリーズでは1で3回。2で3回と都合6回、”さし飲み”の場面があります。
シーズン1の第6話でヨジンがシモクを誘うエピソードについては、すでに触れました。

第8話では、遅れてきたヨジンがシモクの食べているラーメンにスプーンを突っ込んで味見をし、濃すぎると勝手に水を入れたりと二人の距離がグっと増しているのがわかります。
ヨジンが自分のラーメンに水を注ぐのを見て嫌そうな顔をするシモクに笑えます。

しかし、まだこの段階ではシモクは酒につきあいません。
ヨジンが自分の目を信用しているという仕草に、思わず微笑んだシモクを見て嬉しそうにするペ・ドゥナの可愛いこと。

ちなみにこのシーンのメイキングをYouTubeで見られます。
ラーメンを二杯も食べたと身体を動かすペ・ドゥナがおちゃめです。


第16話では、事件解決後、手柄を立てたにも関わらず地方に異動になるシモクと翌日に昇進の表彰式を控えるヨジンが別れの盃を交わします。
ヨジンは、お祝いにシモクの同級生キム・ジョンボンが贈ってくれた口紅をつけて現れます。

空き部屋になるシモクの部屋の家賃のやりとりや見送りができないことを残念がるヨジンの気持ちに相変わらず鈍感なシモクに呆れるヨジン。
笑い顔の似顔絵を花向けに用意してきたペ・ドゥナの得意そうな顔。

「元気でね」と別れを告げるヨジンに「頑張って」と返すシモクでいい雰囲気になったかたと思いきや自分の分のつまみしか頼んでいないシモクにまた呆れるヨジン。
料理人が変わって以前のように塩辛くないといった後、口紅をつけたヨジンの唇に「口が赤いぞ」と無粋なシモクに噴き出すヨジン。
「かわいいでしょ?」に「おかしい」と返すのも切なくもほほえましい別れです。

2025年7月23日水曜日

ヨジンの涙

前回、ぺ・ドゥナの怒る演技について書きました。
となれば、「泣き」について書かなくてはいけない。
彼女の涙のシーンは、とにかく上手でついもらい泣きしてしまいます。

どちらかというと大した役どころではない主人公の妻役だった『トンネル 闇に鎖された男』でも彼女が涙をみせるシーンではホロっとしてしまいます。

実際に本人も涙もろいようで映画監督の砂田麻実氏が是枝監督の『空気人形』の助手をしていた時、リハーサル中にこらえきれずに泣いてしまうペ・ドゥナが本番になるとピタッと泣かずに演技ができる様子について語っています。*1

そんな彼女の涙のシーンの中で頂点だと思っているのが『秘密の森2』の最終話。

シーズン1で立てた手柄のため警察庁に派遣されたハン・ヨジンはいけすかないエリート警察官僚のやっかみで孤立、シリーズの間中居心地の悪い思いをしています。
今回も事件を解決したにも関わらず同僚に仲間を裏切ったと責められるヨジン。

そんな中、昔の現場仲間に飲み会に誘われ、会議室の壁にもたれ、歯をくいしばっても思わず涙ぐんでしまうシーンが忘れられません。

続くヨジンを気遣うチャン刑事はじめ昔の仲間たちの暖かい会話もこれまでの長い経緯あっての感動でした。

余談ですが、かつてのヨジンの席に別の刑事が異動し、ついに警察署に彼女の席はなくなります。派遣だった警察庁も、完全な異動となって情報局に身を置くことになったヨジン。果たして次のシーズンがあるのでしょうか?


*1:『是枝監督とペ・ドゥナの奇跡』(花田欣也著) より。(以下、『奇跡』と記載)この本は『空気人形』の製作に携わった方々へのインタビューで構成されています。ペ・ドゥナがリハーサルで泣くエピソードは砂田氏以外にも多くの方が語っています。

あとがきによると著者の花田氏はペ・ドゥナの1ファンだそうで、ペ・ドゥナ当人にもインタビューしている内容なのでかなり嫉妬しました(笑)

2025年7月18日金曜日

ヨジンの怒り

怒っていても深いところに優しさが溢れる演技はどうしたらできるのでしょうか?

そうした味わいのある芝居ができるのは年配の役者に多いと思います。それは、職業としての年季と人間としての年季の両方に支えられているのでしょう。(いつまでも下手な役者もたくさんいますが)

そのためか若い役者には怒り方が上手な人が少ないようです。
特に若い女優の場合、声が高いせいか怒った声がキンキンして単にうるさくて怖い演技になってしまうようです。
その点、ペ・ドゥナの怒り方はさすがです。声も低めだし。

ヨジンが怒るとき、シナリオの良さのおかげもあって心が伝わり、その演技に涙が出てきます。

シーズン1では、被害者の息子、パク・ギョンワンが尊属殺人(父親殺し)の疑いをかけられます。警察署長にプレッシャーをかけられた現場の刑事たちは、自白を強要しギョンワンに拷問に近い暴力をふるいます。

それを知ったハン・ヨジンは怒りのあまり告発しそうになりますが、検事ファン・シモクにはやまるなと引き止められます。

シモクの一見冷たく思える対応が、実は深い思いやりから出たもので、憤懣やるかたないヨジンに示す解決策も見事です。(そのために、あらかじめ幼馴染キャラを用意しておくシナリオが見事です)

私はね
殴られたことよりも
許せないことがあるの
暴行を加えた側が ━━━
私の同僚だった
彼らは残忍な人たちじゃないわ
許されるから そうなったの
黙ってくれるからよ
誰かが立ち上がれば変えられるの

シーズン2の終盤で、尊敬する上司、チェ・ビッ部長に食って掛かるヨジンとそれを突き放すように見えてヨジンを大切にする部長もステキです。

余談ですが、上記の幼馴染のキム・ジョンポンは、口紅をプレゼントしたりと、どうやらハン・ヨジンに惹かれている節があります。(第5話)
特任チーム設立時、メンバーが集合した時、じっと見つめるジョンポンの視線からヨジンを庇うチャン刑事のジェントルマンぶりも粋です。(第9話)

2025年7月16日水曜日

光るディテール

『秘密の森』を見ているとペ・ドゥナのちょっとした演技に目を奪われます。
演出の力もあると思いますが本人の自然な演技力の賜物だと思います。

そうした演技をまた見たくなり、結局3度も通しで観てしまいました。

例えば、第5話の中で、瀕死の状態で救出されたキム・ガヨン(=クォン・ミナ)の病室にハン・ヨジンが入ってくるシーンがあります。この一瞬の場面のハン・ヨジンの扱いはあくまでも画面端の点景的な扱いですが、その際にさりげなくマスクを装着している姿が映ります。
入る前からマスクをしていても成立する場面ですが、入りながら装着することでシーンに流れるような雰囲気を与えています。

同じような「点景」扱いのハン・ヨジンで大好きなシーンが、第9話でユン課長が夜食のパンを大量に買ってくるシーンです。

机の上にドサっと広げられたパンを特任チームの面々が選んでいます。

そこでハン・ヨジンがパンを選ぶ様子が実に自然で素晴らしい。いったん手に取ったパンを眺めてちょっと戻したり、細かい動作がまるで本当の職場風景のように見えます。


その後、パンを食べているシーンも可愛らしくて、前にこぼれたパンくずを払うシーンも実に上手です。(普通に食べているだけかもしれませんが(笑) おいしそうに飲み食いするペ・ドゥナは、本当にキュートです)

そして、シーズン2のエピソードになりますが、第13話。
シモクとヨジンが会議室で二人、弁当を食べるシーンがあります。

これはシーズン2の事件を解決に導く重要な会話ですが、内容に加えかつてシモクの部下だったヨン・ウンスへの思いを語るシモクと、それを聞いているヨジンの表情が素敵です。

容疑者の住まいを確認するために市庁舎に調べに行くことを思いつき、思いのほか時間が経ったことに気づいて「あ!」と慌てる様子が実に上手い。

ペ・ドゥナの驚いたり慌てたりする演技(『家族計画』の冒頭の交通事故で見せる驚く顔も見事です)はいつも秀逸ですが、もっと見事なのは彼女の怒り、そして涙です。

2025年7月2日水曜日

脳内メーカー

食事の話題でいいますと、第6話でヨジンが街の香水店にいるファン・シモクを見かけて「食事でもどう?」と誘う場面があります。

こんなに自然に、そしてスマートに異性を食事に誘える人はなかなかいないと思います。そもそも異性であること自体を気にしていないようにも思えます。
ハン・ヨジンが性別や身分、年齢など関係なくあらゆる人に心を開いている人だということがわかる場面です。

香水店の後、食事がすんでからの二人の推理劇のシナリオは秀逸です。
風俗嬢クォン・ミナの傷害事件の容疑をかけられてしまったシモクは、ハン・ヨジンを伴い風俗店を再び訪れます。
店の経営者(美しい)を責める二人のコンビネーションは絶妙で、とりわけヨジンのクォン・ミナの住所を犯人に知らせてしまった経緯について経営者を追い詰める発言が心に刺さります。
(クォン・ミナの携帯待受け楽曲を伝えようとするシモクの下手なハミングに呆れた顔をするペ・ドゥナの演技も最高です)

店を後にしたシモクが同僚のソ・ドンジェにはクォン・ミナの住所は突き止められないと思いこんでいた心理は、シモクの優越感であると気が付いた二人。
シモクは自分にそんな感情があったことに驚き、ヨジンは逆に優越感以外にもたくさんの感情が隠れているのだと、(当時ネットで流行っていた)脳内メーカー(マップ)をノートに書いてシモクにプレゼントします。

こころなしか嬉しそうにするシモク。そして別れ際にトボトボ歩き去るシモクの背中に「胸を張って!」と活をいれるヨジンの暖かい心に思わずホロっときます。
(帰路の車中、ヨジンが自分たち二人は信頼できるとほのめかした発言にシモクが初めて笑顔を見せる場面があります)


被害者の老母を食事に誘った上、自宅へ招き料理までねだることができる所以だと思います。
老母が作ってくれたナムルを見てはしゃぐヨジンは、『威風堂々な彼女』のウニに似て、まるで実の娘が甘えているように天真爛漫でキュートです。(第3話)

2025年6月25日水曜日

Two Handerの醍醐味

『秘密の森』では、ファン・シモクとペ・ドゥナが部屋の中で二人になって推理トークを交わす場面~Two Hander(トゥー・ハンダー)*1 ~がたくさんあります。

いずれかが仮説を提示し、相手が仮説をくつがえしたり、あるいは補強したり、次のアクションを決めたり、そして容疑者の候補を絞ったりします。

絵面的には極めて地味なのに、二人の真剣なやりとりと、くるくる変わるペ・ドゥナの表情でいずれもきわめてドラマティックなシーンで観ているあたしたちをワクワクさせてくれます。

例えば、物語の序盤、第四話ではハン・ヨジンがファン・シモクの事務所を訪ねてきたのに留守だったために待ちくたびれて寝ているシーンがあります。

人の事務所でリラックスしきっているハン・ヨジンを見て感情を表せないファン・シモクが少し呆れた表情を見せます。きっと心の奥では、可愛いと思ったことでしょう。
特に寝起きの無防備な仕草は愛らしさが爆発しています。
(そしてすでに彼女がファン・シモクを信頼していることもわかります)
揺り起こすのをやめて仕事を進めるシモクも紳士です。

推理の一環でファン・シモクがハン・ヨジンの恋愛について尋ねるところがあります。
次第によってはセクハラととられてもおかしくない場面ですが、彼の純粋な表情から逆にハン・ヨジンからの問いかけでファン・シモクに恋愛経験がないことがわかり、セクハラ的にはおあいこになりました。恋愛経験がないシモクをからかったりせずにスっと受け入れるヨジンもステキです。

二人の対話シーンで言いますと、屋台や飲食店での二人飲みの場面はみんな大好きだと思います。
話が進むにつれて、当初は酒を飲まなかったファン・シモクがお酌をするようになったり、自分からヨジンを食事に誘ったりと二人の信頼が増していく様子が二人の食事場面でよく描かれています。


*1:  演劇の世界でよく使われる用語で、二人の俳優だけで物語が展開される作品や場面を指します。こうしたシーンは演技力が問われるため、俳優にとっては腕の見せどころでもあります。

2025年6月22日日曜日

貧相な成りからフルファッションまで

『秘密の森』第3話には、ファン・シモクの報道番組出演という山場の一つがあります。

被害者の老母が働くサウナに向かう車中でハン・ヨジンがファン・シモクの番組出演の様子をからかうシーンがあります。まだ会って日も経っていない相手の懐に入れる魅力があります。
ダッシュボードに、「がんばりましょう!」と飴を置く場面も、ペ・ドゥナらしい暖かい表情です。追い詰められたファン・シモクに対する彼女の優しさにホロっと来ます。

ハン・ヨジンは、ファン・シモクに尊属殺人(この場合は子殺し)を疑われた老婆を慰めるために一人サウナに残ります。老婆に語り掛けるペ・ドゥナのサウナウェアー姿はとてもキュートです。

『グエムル *1 』や『ほえる犬 *2 』のような貧相なファッションを着るとなんとも可愛いペ・ドゥナが、いったんフル・ファッションになると、まさにこれがモデルだという立ち姿になります。この変化を起こせる女優力は見事です。
ハン・ヨジンのキャラクター設定に関して参照させていただいたNoteには、ハン・ヨジンのファッションについてペ・ドゥナ本人が「(ハン・ヨジンが)着ている服が高級で、金持ちの出かもしれない」と言っています。

『秘密の森』のメイキング映像でファン・シモク役のチョ・スンウがペ・ドゥナが乗ると車がカッコよく見える、さすがモデルとからかうシーンがあります。

批評家の佐々木敦氏は、実際のペ・ドゥナの身長が171cmとかなり背が高い方で、『リンダリンダリンダ』のバンドメンバーと並んだ様子について以下のように触れています。

実際の身長差以上に、ドゥナはかなり背が高く、そしてとてもデカく見えた。(中略)だが『ほえる犬』では下手をするとちっこくさえ見えたし、『子猫』でもさほど大きくは感じなかった。*3

まったく同感です。

衣裳による変化に加えて、背の高さまで視聴者の意識をコントロールできるのは共演者の体格との相対的なサイズ感など制作者・製作者たちの技術もさることながら当人の並外れた演技力によるものだと思います。

図は、『リンダリンダリンダ』のスピンアウトとしてリリースされた劇中バンド「ザ・パーランマウム」のアルバム『we are PARANMAUM』のジャケ写です。

日本人メンバーも一般人と比べたら並外れて美しい人たちですが、ペ・ドゥナのプロポーションの見事さがわかります。頭ちっちゃ~~い。



*1: 『グエムル-漢江の怪物-』
*2: 『ほえる犬は噛まない』
*3: 『永遠のミスキャスト』(前掲『ユリイカ』)より

2025年6月21日土曜日

長屋のご隠居的鷹揚さ

第二話では、出会ったばかりのハン・ヨジンは、ファン・シモクの人と成りを知りませんので、彼の不愛想な態度にとまどいます。

彼女が自分から手を差し出し名前を名乗っているのに無視して用件だけ尋ねたりと無礼極まりないファン・シモクですが、「いきなりなによ」(16')程度の文句を言うだけで、その後も親切に証拠保管室まで案内してあげます。

このハン・ヨジンの鷹揚な感じは、落語で、ちょっと失礼な奴が態度が悪くても「おいおい。困った人だねえ」程度の小言を言う長屋のご隠居さんレベルの懐の深さだと思います。
「懐が深い」感じが出るのはペ・ドゥナが「心のこもった怒り方」の演技ができるからだと思います。
そうした怒り方ができる日本人の美しい女性の役者はなかなかいなくて、みなキンキンした怒り方になってしまいます。(松たか子や二階堂ふみは上手そうです)

ハン・ヨジンの人間の大きさはシーズン2の最終話でファン・シモクが説明してくれます。

殺人事件に検察と警察の収賄が絡んでいることを知ったファン・シモクとハン・ヨジンが車にのって現場に向かいます。彼女を置いて一人で出かけようとする失敬なファン・シモクの車に強引に乗り込んだヨジンは、文句も言わずファン・シモクの荷物を手に取って後部座席に置いてあげるシーンもヨジンの大きな人柄を表していると思いました。

この道中の二人のやりとりが彼らが事件の真相に迫る覚悟を決めた宣言となっています。

自分の上司や警察署長、身内の犯罪を暴くとなると自分の身にも被害がおよぶかも?
俺たちは真実を追う身だ。
埋もれかけていた真実を君がすくい上げた
だがすぐに動くかどうかは決めかねる
今までハン・ヨジンはどう活きてきたか----------
それにかかってる

相手を突き放すようなファン・シモクの言葉ですが、挨拶も無視していたかのようなシモクがきちんとヨジンの名前を憶えていたこともわかります。
この宣言は、シリーズを通して二人の憲章のようなものになっています。

ハン・ヨジンは、キム刑事が隠し持っていた証拠品の(被害者の息子の物である)パソコンを手に入れます。彼女がPCを起動すると美少女アニメのキャラクターの背景画像が現れます。

それを見たヨジンが思わず「こはねちゃん!」とつぶやきます。

ヨジンがマンガやアニメが趣味であることを示唆するさりげないシーンです。

ちょっと訛りのある「こはねちゃん」の日本語の可愛さは、『リンダリンダリンダ』のソンちゃんの日本語を知っているファンにはたまらないと思います。

ペ・ドゥナの声は独特のイントネーションがあってそれも可愛さの一つです。

『リンダリンダリンダ』では仲間との話に夢中になるあまり韓国語でまくしたててしまうシーンが何度かあります。おなじみのペ・ドゥナの話し方だと思ってニヤっとしてしまう場面です。

不思議なのは、彼女が話す韓国語と日本語はすごく可愛いのに、ハリウッド作品では、英語は上手なのに(だけに?)ペ・ドゥナらしいキュートなリズムや抑揚が感じられません。

日本語と韓国語は同じタイプの言語なので英語にそれを求めても仕方ないのかもしれませんが・・・。

彼女の英語については、ハリウッド作品について述べる際にもあらためて触れたいと思っています。

恋愛報道と今年の女優賞

以前からペ・ドゥナが交際していると伝えられていたイギリス人の俳優 *1が恋人であるとペ・ドゥナ本人が正式に認めたということで、生まれて初めて芸能人の恋愛に本気で嫉妬している自分に驚いています(笑)。
あぁ、これが男性アイドルの恋愛ネタに落胆しているファンの心理だったのだ、と。

ま、「第23回ディレクターズカット・アワード」で「今年の女優賞」を受賞したということもありますし、しょげているのも大人げないので先に進むことにします。(『家族計画』についての感想はいずれあらためて)

シーズン1の第一話の警察の廊下でチャン刑事とハン・ヨジンがおどけた挨拶をする場面が可愛いという話をしましたが、『秘密の森』でペ・ドゥナの魅力的な演技を中心に見どころを書いて行こうと思います。

ディレクターズカット・アワードを受賞した『家族計画』より。
世界一ボブが可愛いペ・ドゥナですが、このボブは中でも一番です。


*1 : 2012年にラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟(姉妹)監督の『クラウド アトラス』で共演以来、ウワサになっていたジム・スタージェス。ちなみにこの姉妹の作品は、どれも映像だけが素晴らしくてお話が著しく陳腐だという特徴があります。詳しくはあらためて。

2025年6月19日木曜日

秘密の森~推理シーン、OST~

 シーズん1に比較的多い演出で、検事ファン・シモクが推理を働かせる場面で、いきなりまるでいま目の前で起きているような描き方をします。
他の韓国ドラマでも多用しているテクニックで、日本のドラマでももちろんあるのですが、『秘密の森』の場合、推理や過去シーンと通常のシーンの切り替えがシームレスに遠慮なく唐突に行われます。

例えば、ファン・シモクが犯人に成りきって犯罪を犯している場面をファン・シモク自身がその場で見ているシーンなどです。

大抵は、文脈やちょっとしたイフェクトで彼の想像の場面だなとわかるのですが、ぼうっとしていると、それが実際に起きた場面だと思い込み、推理されたシモクの頭の中に描かれた(仮の)容疑者を真犯人と勘違いしてしまうことがあります。

ドンジェ本人が想起した場面と勘違い
あたしの場合、ファン・シモクが同僚の先輩検事ソ・ドンジェを疑っていた時、彼が娼婦クォン・ミナを拉致監禁しているのではないか?と推理した場面をシーン切り替えによる実際の場面だと勘違いしてしまいました。(シーズン1第六話)

ソ・ドンジェ検事は、『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男(*1)に相当する役回りで、やたらとアンビシャスなために主役たちを裏切ったり、逆に協力したりとコウモリのようなキャラクターで、彼のスタンドプレーで無実の人間が有罪になったあげく自殺したりと主役たちの捜査を妨害攪乱します。

ソ・ドンジェ(イ・ジュニョク)は、男のあたしが見てもほれぼれするような色男です。
ドラマの中でも自分で「顔がよくて検事になれたと言われています」と言っているくらいなので、小狡い性格からしても女性関係もさぞやだらしないかと思いきや、その点に関してはジェントルマンなのが憎めないところです。

オマケの特徴として挿入曲について一言。

この作品では、韓国ドラマでよくあるようなエンディングやドラマの途中で盛り上げのために流れる歌謡曲(OST)がほとんど流れませんし、流れたとしても尺が短くほとんど気になりません。強いていえばシーズン2のラストが長尺で流れるだけです。

他のドラマの作り手たちは、挿入歌でグっと盛り上げようと考えているのでしょうが、歌謡曲が流れてくるとあたしの場合は逆に気が散って醒めてしまいます。

このドラマでは、歌謡曲ではなく重厚なインストの曲が流れるので緊迫感のある演出になっています。

深刻な時、捜査の重要な場面では静かでミニマルな、時にパーカッションだけのようなBGMも映像を引き締めています。


*1:ねずみ男のような役割
”トリックスター”と呼んだ方が一般的に通じるかもしれません。嘘をついたりいたずらしたりするが、物語を動かすきっかけになる。ねずみ男にかなり近い存在です。道徳的にグレーで、自分勝手だが、どこか憎めない存在です。(だからこそ、スピンアウトが制作されるわけですが)

裏切り・嘘・二面性を持つキャラクターで主役と敵をつないだり、物語の進行に都合よく動くキャラ。信頼はされないが、いなければ困る存在で「調整役」的な役割も果たしています。
特にシリーズ2では、ソ・ドンジェが”善かれ”と考えた行動が、それこそ良くも悪くもとんでもない展開を招きます。

2025年6月18日水曜日

秘密の森~エクスポジション無し~

『秘密の森』では登場人物の関係性を視聴者に説明するようなセリフやシーン(エクスポジション)がありません。

日本のドラマでは、居酒屋だったり、関係者が一堂に会しているパーティなどで脇役などが主人公に「あの人は、○○財閥の御曹司で、異母兄といま財産をめぐって熾烈な争いをしているのよ」なんてやたら説明臭い場面(ダイアローグ・エクスポジション)がありますが、このドラマではまるで現実に起きているやりとりを視聴者は、その場で見ているかのような演出で、背景説明が一切ありません。
話数が多くじっくりと背景を語ることができる韓国ドラマならではのアドバンテージだと思います。(見ている方が後で忘れてることが多いですが(笑))

例えば、シーズン2で「イ・ソンジェ」という人物についての会話が頻繁に出てきます。(シーズン1では、その存在について言及がありますが名前までは出てきません)

イー一家ではなくてイいっかです
彼について初めて言及される場面では、ハンジョ財閥の長男でイ・チャンジュン検事長の妻、イ・ヨンジェの異母兄だという視聴者向けの説明は、まったくありません。(おまけにヨンジェとソンジェで一字違いなのが余計わかりにくい)

おまけにこの「イ・ソンジェ」という人物にはキャストが不在で、出演者たちの会話だけに登場してくるキャラクターだということがわかりにくさを倍増しています。

いつか画面に登場するのかと待ちましたが、ついに最後まで現れませんでした。

イ・ソンジェの父親、つまりイ・チャンジュンの義父、ハンジョ財閥の会長は、イ・ユンボムという名前なので、日本人である我々にはイ・チャンジュン、イ・ソンジェ、イ・ヨンジェ、イ・ユンボムと続くともはや誰が誰だか判別がつきません。

あたしたち視聴者は、画面の中の彼らの会話を”仄聞”して相関関係を知り、自分の理解力とこれまでのエピソードとのつながりを想起して登場人物たちの利害関係や消息などを導き出さなければなりません。

その意味では不親切な脚本ですが、そのために物語のリアリティと重厚さが際立っています。

2025年6月17日火曜日

秘密の森~主役たちの特徴~

他のペ・ドゥナ出演作品の話に移る前に、『秘密の森』の特徴や印象的な内容について、くどくどと記しておきます。

 ◎主役が天才ではない

検事ファン・シモクはとてつもなく頭が切れますが、超能力者でも天才でもなく、計画犯に翻弄され間違いを犯します。
シャーロック・ホームズから杉下右京に至るまで刑事・探偵物の主人公は、なにもかもお見通しですが、ファン・シモクもペ・ドゥナ演じる刑事のハン・ヨジンも事件の森の中をさ迷い続けます。

シモクは、冷徹に相手かまわず予断をもたずに疑いますので組織内で軋轢も生じます。

◎粋がらない”女”刑事

ハン・ヨジンは、ドラマの”女刑事”にありがちな突っ張って、粋がって、変わり者で、無鉄砲で身勝手なキャラとは正反対です。
男の刑事たちに混じって淡々と普通に働いて、協調性があり、頑張り屋なので、彼らからも一目置かれています。(突っ込むときは、大胆に突っ込みます)

第一話目で検事(ファン・シモク)に容疑者を奪われてくさっているハン・ヨジンを同僚刑事たちがからかいます。
ヨジンが、検察にいって文句を言ってくると言って外出しそうになると、腹に一物ある同僚のキム刑事が、彼女の名前を呼ばずに「ちょっとちょっと」(アマゾンプライムでは「おい」)と呼びかけます。
そばにいたチャン刑事(彼は、警察内でのヨジンのバディになり、組織においてハン・ヨジンともっとも深い信頼関係になります)が「(キム刑事の態度は)失礼だな」と言うとヨジンがおどけながら敬語の挨拶をして出かけます。

おどけた仕草もキュート

いたずらっぽい仕草が、とても可愛らしくて素敵です。

余談ですが、この時のチャン刑事の発言の翻訳がアマゾンプライムとネットフリックスで異なっています。
上記の場面で、ネットフリックスのチャン刑事は「なにが”ちょっと”だよ。敬称で呼べばいいのに」と話しますがアマゾンプライムのチャン刑事は「もう2カ月になるのに”おい”はひどいな」と言います。

あたしは、最初Netflixで見たので、ハン・ヨジンと同僚たちとの距離感がわからず、もう長いこと慣れ親しんだ同僚仲間と思い込んでいましたが、実際には赴任してまだ二か月しか経っていないことがわかりました。

後に、他の同僚と異なりハン・ヨジンは、警察大学を卒業した超エリートで、本来であれば現場で泥臭い仕事をするような立場ではないことが知れます。
アマゾンプライムでは、この下りしか視聴していませんが、おそらく多くの部分で翻訳が異なっていることと思います。韓国語がわかればなぁと悔やみました。

そんな警察のチームですが、周囲の男性刑事たちも、『リンダリンダリンダ』の高校の後輩たちのように、紳士で悪質なセクハラやパワハラがありません。

ハン・ヨジンは、韓国ドラマの美女ヒロインのようにツンデレでもなく、終始自然体で捜査関係者や事件関係者にも優しくて包み込むような慈愛にあふれています。
そして、恫喝にも動ぜず、悪に対して向き合うときのきりっとした表情のかっこいいこと。

彼女とファン・シモク検事が最初に遭遇する場面(現場の玄関でただすれ違うだけ)は、(大女優ペ・ドウナと知らなければ)地味過ぎてとてもヒロイン登場の場面とは思えません。

余談ですが、「普通にはたらくドラマの刑事」という点について、読売テレビでオンエアされた『彼女たちの犯罪』に登場する上原刑事(野間口徹)に扱いが少し似ているなと思いました。

ある犯罪に手を染めてしまっている同僚の熊沢刑事(石井杏奈)は、一見凡庸に見える上司、上原の実力を当初侮っています。

しかし、上原の真の優秀さ、粘り強い捜査に、彼女たちはじわじわと追い詰められていきます。

◎恋愛無し

ファン・シモクとハン・ヨジンは、恋愛関係になりません。
二人の関係性は、刑事ものによくある”バディ”ほど”熱く”もない、とてもデリケートな距離感です。(心の奥底では、ちょっとだけ好き同志かも)

ハン・ヨジンの懐の深い性格のおかげで、ファン・シモクの固まった心が少しずつ溶けていきます。(心、脳みそ?のリハビリになっている?)
そして、シーズン2の最終話で彼らの信頼関係がゆるぎない物に育ったことが描かれます。(ファン・シモクの台詞ですが、泣いてしまいました。感動的なシーンです)

◎過去のトラウマのないハン・ヨジン

ハン・ヨジンは、これまたありがちな過去のトラウマ(幼い頃、親がどうしたとか)などを抱えていません。一般的な主役の刑事は、くせが強く、秘密の過去があります。
その秘密が事件と深いかかわりがあり話数が進むに従い謎が明らかになっていくというのが定番ですが、彼女は高学歴のごく普通に就職した職業刑事(のようです)。

この要素については、ネットで拝見したNoteの記事に掲載されていたハン・ヨジンのキャラクター設定についての本人インタビューにもありました。

相方のファン・シモク検事には持病の治療という特殊な過去がありますが、ドラマ冒頭で説明が行われます。

ハン・ヨジンの学歴という要素はシーズン2で組織内での彼女のキャリアに大きく関係してきます。

2025年6月16日月曜日

ペ・ドゥナの完成形

あたしは『秘密の森』の後、他の韓国ドラマも見るようになりました。

どの作品でも出演者たちが、大声でがなり立てたり、怒鳴り合ったりするシーンが多い印象でしたが、ドラマの主役たちはいずれも物静かで思慮深く振舞います。

こうした典型的ながさつなやりとりはドラマ上のカリカチュアで現実には韓国人たちも落ち着いた人格を好ましいと思っているからこそ主役は落ち着いた性格で描かれているのかと思います。

常に冷静な二人
『秘密の森』の主役たちも常に冷静です。

さて、あたしが『秘密の森』でそのキュートさに参ってしまったペ・ドゥナは、公開時の年齢が38歳。シーズン2は、41歳です。
41歳で、こんなにチャーミングでかっこよかったら、若い頃はどれだけ可愛いかったのだろう?(笑)

そう考えたあたしは、これまでの彼女の作品を巡ってみることにしました。

余談ですが、歳を取るメリットのひとつに好みの相手の年齢幅が広がることがあります。
今のあたしにとっては50代の人も年下ですので、可愛く見える人もいます。
そこから犯罪を犯さないで済む年齢まで恋愛対象のターゲット(笑)が広がります。(現実の話であるとか相手側の事情は別です。そこを勘違いすると大変なことになりますので自制してください)

初期の作品のペ・ドゥナは、それはそれはとろけるようにキュートです。そんな昔と比べると『秘密の森』の彼女は確かに年相応になっていますが、あたしの目にはむしろそれが大きな魅力になっています。*1

刑事事件を追う深刻な内容のためともすれば陰鬱になりがちな内容のドラマですが、剽軽な実務官や同僚のチャン刑事、そしてペ・ドゥナの暖かい演技がドラマの空気を明るくしてくれています。

初期作品の演技と比べると『秘密の森』で見せるハン・ヨジンは緩急に富んでいて、自然で自在な仕草、コミカルとシリアスが絶妙なバランスでハイブリッドに熟成されたペ・ドゥナの完成形だと思います。

*1 : 2017年の『ペ・ドゥナ、7年ぶりの韓国ドラマ出演について言及「冷静な評価を受ける時期が来た」』という記事では、『秘密の森』のオンエアにあたりインタビューでこう答えています。

もうそろそろ冷静な評価を受ける時期になったと思った。ここ7年間で生じたシワも見せたいし、世間から演技に対する評価も受けたかった。

2025年6月14日土曜日

秘密の森 ~視聴のきっかけ~

Netflixのホーム画面には、多くの作品のサムネイルが所狭しと並んでいます。

その中の数作になんとなく気になる(要するに好みの顔の)女性の写真が出ていて、それがペ・ドゥナでした。(『秘密の森』の他に『Sense8』や『Rebel Moon』など)

見覚えがある顔だと思っていたら、以前、劇場で観た『クラウド・アトラス*1』に出ていた人だと思い出しました。

それまでに見た韓国ドラマは一時期話題になった『愛の不時着』だけでした。
韓国ドラマは、確かに面白いのですが、なにぶん一話が”長い”。話数も多い。
さぁ見るぞ!と気合をいれないといけないというので、『愛の不時着』以外の作品に関しては長い間敬遠していましたが、ペ・ドウナの顔写真に惹かれ重い腰を上げて見始めました。

ところで、前回のポストでペ・ドゥナが「可愛い」、「美しい」と言った舌の根も乾いていませんが、彼女はあたしの目には美しくても、万人受けする美人ではないと思います。

ペ・ドゥナを知らない友人に彼女の写真を見せたところ「なんで?」というような反応が返ってきました。ま、所詮は好みの問題ですが、友人が彼女の演技を見たら考えが変わること間違いなしだと思っています。

作家の横田創氏は、前掲書『ユリイカ』に寄せた「神と見紛うばかりの」というエッセイで、ペ・ドゥナの鼻を「団子っ鼻」、目のあたりを「腫れぼったい」と書いていますが、同時に彼女の「広いおでこ」や「まんまるの目」について愛にあふれた書き方をしています。

ぼんやりしていても、ぱっちりしている。それも人形の目のようにぱっちりしている、のではなくて、どちらかといえばカエルやフクロウの目のようにぱっちりしている。

褒めているのか貶しているのかわからない書き方ですが、でも彼女を大好きな気持ちが伝わります。
ペ・ドゥナが一点を凝視している時の目と表情の可愛さは、横田氏が言うように神々しくもあります。

*1: 『クラウド アトラス』(2012年)は、デイヴィッド・ミッチェルの同名小説を原作としたSFドラマ映画。19世紀から未来の文明崩壊後までの6つの時代を舞台に、それぞれの物語が複雑に交差する。キャストは各時代で異なる役柄を演じ、1849年、2144年、2321年の物語をウォシャウスキー姉妹が、1936年、1973年、2012年の物語をトム・ティクヴァが監督。

2025年6月13日金曜日

ペ・ドゥナ病に罹患

韓国の連続ドラマ『秘密の森』を見てから俳優のペ・ドウナの大ファンになりました。

これまで特定の作家や作品のファンになったり、ミュージシャンを気に入ることがあっても、芸能人の熱烈なファンになるという経験がありませんでした。

早い話がペ・ドゥナに恋してしまったのです。
とはいえ、彼女のファンがみな口を揃えて言うように、彼女の場合、不思議なことに”邪な”妄想(笑)が生じません。ただ純粋に好きなだけです。

演技力の凄さに。見た目の可愛いさと美しさに。

例えば、彼女の初期の出演作『プライベートレッスン 青い体験』は、青春ドラマとは言え一種のアダルト作品です。ペ・ドゥナの裸やセックスの場面を見せられますが、なぜか心に思うのはナムオク(ペ・ドゥナ)に幸せになってほしいという気持ちになってしまうのは、エロス作品にペ・ドゥナを起用した製作者の失策でしょう(笑)

彼女の可愛さを一番よく伝えてくれているのが『空気人形』の是枝裕和監督と『リンダリンダリンダ』の山下敦弘監督のお二人の対談です。

是枝「普段も可愛いですからね。みんな好きになると思うよ、本当に(笑)。現場にいたおじさんからおばさんからおじいちゃんから子どもまで、みんな嘘偽りなくペ・ドゥナのファンという感じ。僕もですけど。面白いし、本当にチャーミングなんですよ。」

山下「可愛いですよね(笑)。」*1 

このあと、山下監督が『リンダリンダリンダ』を撮り終わって、夢にペ・ドゥナたちが出てきてからというものドキドキして以前のようにペ・ドゥナに接することができなくなってしまうというエピソードが続きます。

映画監督など製作者たちにしか見られない「普段の可愛いペ・ドゥナ」を見たいと思っていたところ、YouTubeに『私の少女』のメイキング映像がありました。

差し入れを配っている様子にペ・ドゥナの人柄がうかがえます。

ペ・ドゥナにお菓子もらいたい(笑)


*1:『ユリイカ2009年10月臨時増刊号 総特集=ペ・ドゥナ 『空気人形』を生きて』対談 是枝裕和 山下敦弘『ペ・ドゥナ、おそるべき女優魂』より(以降、本書を『ユリイカ』と書きます)