2010年9月13日月曜日

国境の南 ※

あたしのお袋は、若い時分に結核に罹り(結局、誤診だったそうですが、)「サナトリム」に入っていたそうです。

「サナトリウム」とは、辞書によりますと「空気の良い場所に建てられた、(主に)結核等を療養するための施設」でして長期滞在して栄養のよい食べ物をとって病気を治すという目的の施設。
当時、結核は恐れられていた病気で、たくさんの人が罹っていました。

時代は少し下りお袋が結婚してあたしが生まれてからも、叔父貴の一人が、清瀬にあるサナトリウムに入っていたことがありますし、珍しいことではなかったようです。

さて、母によりますと親はうつるのが怖くてあたしを入れたなんて憎まれ口を叩いていましたが、親としては心配だったのでしょう。
ま、この話の関係者はほとんど他界してますので差し障りはないと思いますが、一応場所は伏しまておきます。
そこは、サザンの歌などで有名な場所にある海の見える療養所だったそうで。夜、ベッドに横になっていると近くを走る海岸線の電車のゴトンゴトンという音が響いてきたそうです。
(追記2024/05/18:文脈から明らかですが、ご想像の通り「鎌倉」です)

さて、サナトリウムは長期療養所ですので費用もかかるので、大金持ちの子供が沢山入所していたそうです。
では、なぜ母がそんな施設に入れたか?というと母の実家が戦争で当時は羽振りがよかったらしいのです。

追記2017年5月25日この母も今年亡くなりました

入院している患者の中には、どうやら仮病で兵役を逃れているお金持ちの子息なども混じっていたようで。財閥やらの家族がわんさと居たってのが母の言。
そんな一人に某大企業重役の娘がいまして母は仲良くなったそうです。その方の名前を仮にTさんとでもしておきましょう。

病人といったって健康ですから。若い男女が混じってると恋が生まれる。
Tさん、施設にいた某財閥の子息のKさんと恋に落ちたんですな。
相思相愛です。だが、こちらも大手企業の娘とはいえ相手が悪い。なんてたって日本人なら誰もが名前を知っている一家ですからな、相手は。
家族に反対され、やがて退院し離別へ。

大人になってからTさんとはあたしも何度かお会いしたことがります。貴婦人です。タバコが似合ってた。

さて、彼女は、Kさんが忘れられず、その後独身を通します。

別れてから長い年月が経つ。それでも忘れられず。ある日、彼女はKさんの邸宅を訪ねます。というよりフラフラと足が向いた----------いや、思い出したぞ。その日は、Kさんの誕生日だったんだ。Tさんは花を持っていった。

屋敷の門前にぼんやりと立つ。そこに大きな車が来たそうです。後部座席を見ると、あのKさんが乗っている。車に駆け寄るTさん。車を急停止させて飛び出す運転手。守衛もかけつけ怪しい老女を取り押さえる。

車から降りたKさん。穏やかに、運転手たちに、怪しい人ではないので放してあげなさい、と指示を出し、彼女から花束を受け取ると、再び車に乗り込むと屋敷の中に消えていったそうです。

『South of the border』の歌詞が思い出されます。----------ま、母は話を大げさに脚色する傾向にあるのでどこまで真実かわかりませんが、昭和初期の誰も知らないロマンスであります。

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